可聴コントラストしきい値 (ACT™) テストに関するこのガイドでは、騒音下での聴覚能力を測定する方法、ACT の実行方法などについて説明します。続きを読む。
本ページは、アクトご紹介のための聴覚ケアの専門家向け完全ガイドです。
騒がしい環境での聞き取りづらさは、補聴器ユーザーが一番よく訴えることです。聴覚ケアの専門家として、このような複雑な聴取環境で補聴器ユーザーが直面する課題を理解し、補聴器が適切に機能するように、補聴器を調整する必要があります。補聴器フィッティングのプロセスをサポートするために、専門家が日常的に使用しているテストについて見てみましょう。
100 年以上にわたり、純音聴力測定は、補聴器調整における主要な測定ツールとして用いられています。純音聴力測定では聞こえの量(静かな環境での聞こえの程度)を測定し、その結果を用いて補聴器の利得を設定しています。純音聴力測定は補聴器フィッティングに欠かせないものですが、補聴器ユーザーの雑音下聴取能を予測するには不十分であることが、文献で幾度も指摘されています(Killion ら, 2004 年)。このため、雑音抑制や指向性のような高度な補聴器機能の設定に、純音聴力測定を利用することはできず、別の測定ツールが必要です。
補聴器フィッティングで利用できる 2つ目の測定ツールは静寂下での語音聴力測定 SIQ検査:Speech in Quietです。この検査では、補聴器装用下や裸耳で、被検者がどのくらい語音を聴取できるのかを測定します。静寂下語音聴力測定より、語音の可聴性に関する有用な情報をかなり得ることができますが、雑音抑制や指向性のような設定を行うには情報が不十分です。
最後に、雑音下語音聴力検査があります。これは、雑音下での語音聴取能を実際に測定する検査です。長年にわたり臨床での使用が可能となっているにも関わらず(一定の言語のみですが)、世界各国で日常的に使用されてはいません。英国でこの検査の利用状況を調査した Parmar と Rajasingam の報告(2023 年)では、検査の実施に関する以下のような課題が報告されています。
言語に依存し、検証済みの語音素材がそれぞれの言語で必要である。
実生活の状況を反映した結果を得るには、複数のスピーカーなどの複雑な機器構成が必要になる。
検査結果を使用し、どのように補聴器の設定を変更すれば良いのかが明らかになっていない。
したがって、「聞こえの量」を測定できる手法はあるものの、現時点では「聞こえの質」を検知できる尺度を見出すのは難しいことがはっきりしています。このことは、高度な補聴器機能の処方や調整を行う場合の大きな課題となっています。しかし、幸いにもこうした状況は、ACTの導入により一変しました。
ACTは Audible Contrast Threshold(可聴コントラスト閾値)の略で、難聴者の雑音下語音聴取能を予測するために作成されたテストです。ACTは純音聴力測定でも語音聴力検査でもありません。ACTでは変調を加えたノイズ信号を使用して、被検者が音の違いを聞き分けるために必要とする「コントラスト」の程度を測定します。言い換えると、被検者が雑音下で語音をどの程度聞き取れるかを予測します。ACTの結果は、雑音抑制や指向性などの補聴器の自動機能の処方に使用できます。
ACTテストでは純音聴力測定と同様に、ヘッドホン(またはインサートイヤホン)と応答ボタンを使用し、測定はわずか 2 ~ 3 分で終了します。語音素材は使用しないため、被検者が何語を話すのかは関係ありません。このため、言語能力に関係なく、雑音下語音聴取能を測定することができます。
また、被検者の難聴の程度を考慮し、呈示音圧が自動調整されます。純音聴力閾値(オージオグラムの形状やレベル)を考慮することで、呈示音圧の自動調整が行われます。このため、雑音下語音聴取能を正確に、個々人の聴力に合わせて測定することができます。
最後に、ACTの結果は、補聴器のフィッティングソフトウェアに手動または自動で入力可能で、補聴器ユーザーの雑音下語音聴取能に基づいた、他覚的で個別化されたフィッティングが可能となります。※一部の補聴器ブランドのみでご利用いただけます。
ACTテストとその仕組みを十分に理解するために重要な、ACTの裏づけとなる基礎研究については、以下をご覧ください。
インターアコースティクス研究ユニット(IRU)は、ACT の開発を支えた研究ユニットです。ACTは、スペクトル・時間変調(STM: Spectro-Temporal modulation)検知という心理音響的な測定に基づいています。
STM検査では、音声語音を特徴づける変動を模した非言語音を被検者に呈示します。ここで言う変動を理解するために思い浮かべていただきたいのは、音節ごとに振幅が上がったり下がったり(強弱)すること(時間的変動)や、疑問文で語尾に向かって声がだんだん上がっていくこと(スペクトル変動)などです。
このような変動は、変調という用語を使用し説明することもできます。STM検査では、語音を呈示する代わりに、語音を特徴づける変調を模した人工の刺激音が使用され、被検者はこの変調が加えられたピンクノイズを聞き取ります。被験者はテスト中、変調が加えられていないノイズと、変調が加えられたノイズを聞いています。変調がある音は、サイレンのような音に聞こえます。
STM 検知では、変調が加えられた音と加えられていない音を被検者が明確に聞き分けられる変調度から検査を開始します。そして、変調音が聞き分けられなくなるまで、変調度を下げていきます。この聞き分けられる最小変調度が STM 閾値、つまり ACT 値です。
数年前に、STM 閾値(測定値)と、複数のスピーカーを使用した複雑な検査条件で実施した高度な雑音下語音聴取検査が密接に相関することが報告されたため、STM 検知は研究者の間で多大な反響を引き起こしました。STM の結果は、聴覚ケアの専門家が雑音抑制や指向性のような補聴器の自動機能を設定する際に役立つと考えられていました。しかし、Bernstein ら(2016 年)の研究で、信頼性の高い STM 閾値が得られたのは難聴者の3 分の 2 のみであったことが明らかになり、臨床現場で使用するためには検査手法の変更が必要であるこが示唆されました。
インターアコースティクス研究ユニットは、この段階から STM 検査の研究に関わり始めました。まずは、STM 検査パラダイムにいくつかの変更を加えることから始め、被検者の難聴を補償し補正する刺激音の開発(Zaar ら, 2023a 年)などを実施しました。
このような変更の後、フォローアップ研究を実施し、被検者の難聴を補償することで、被検者全員の STM 閾値が測定可能となることが分かり、Bernstein らの研究(2016 年)で明らかになった問題は解消されました。このフォローアップ研究では、STM 閾値と複数のスピーカーを使用した高度な雑音下語音聴取検査との比較も行われました。その結果、この新しい手法で測定された STM 閾値でも、補聴器装用下の雑音下語音聴取の結果を正確に予測できることが明らかになりました。
関連コース: Audible Contrast Threshold: Introduction(可聴コントラスト閾値:概要)
この情報を受け、インターアコースティクス研究ユニットは、臨床現場で使いやすい方法で検査を実施できるように、さらにSTM 検査手順の開発を続けました。標準的な純音聴力測定と同じ機器を用いて、Hughson-Westlake のbracketing法を使用し 2 ~ 3 分で閾値を判定できるようにしました。このようにしてACT は誕生しました(Zaar ら, 2023b 年)。
最後に、ACT は雑音下の英語での語音聴取閾値だけが予測可能なのではなく、国際的なテストであることを確認するために、ACTとデンマーク語、ドイツ語、日本語などの複数の言語での補聴器装用下語音聴取能との相関を検証するために、複数の研究を実施しました。
詳細情報: Research journey behind ACT(ACT を生み出した研究の道のり)
上述の通り、ACT では変調を加えたノイズ信号を使用して雑音下語音聴取能を測定します。目的は、被検者が検知できる最小のコントラストレベルを測定することです。ACTを実施するには、以下の周波数で気導聴力閾値の測定が必須となっています。
オクターブ間周波数(750、1500、3000 Hz)の純音聴力閾値も測定した場合は、それも考慮されます。以下の動画で、防音室でテストが実施される様子をご覧ください。
動画でご覧いただいたように、テストは簡便に実施でき、テストを受ける被検者への説明も難しくありません。これは、ACT が純音聴力測定と類似しているからです。被検者には、特定の音が聞こえたときに応答ボタンを押すように説明します。
ACTテストが完了すると、結果が表示されます。この値は ACT 値と呼ばれるもので、単位は dB nCL です。nCL は「normalized Contrast Level(正規化コントラストレベル)」の略語です。これは、インターアコースティクス研究ユニットの研究チームが開発した新しいスケールです。簡単に説明すると、nCL の各文字の意味は次のとおりです。
n = normalized(正規化):スケールは、若年正常聴力者を対象として得られた正常データに基づき正規化されています。そのため、若年正常聴力者のスコアは 0 dB nCL になっています。
C = Contrast(コントラスト):被検者は、信号の変調に関して、コントラストを検知しています。
L = Level(レベル):ACT値は dB 測定値であるため、そのように示されています。ただし、呈示レベルを示しているのではなく、信号のコントラスト/変調の量を示しています。
ACT 値は、-4 dB nCL から 16 dB nCL までの値をとります。 検査者はこの値から難聴者の補聴器装用下における雑音下語音聴取能を予測できます。 ACT 値が低いほど、被検者の雑音下語音聴取能は良好です。ACT 値が高いほど、被検者は雑音下で語音を聞き取るのが困難です。
インターアコースティクス研究ユニットが報告している、ACT 値の標準データについては表 1をご参照ください。
ACT 値が高いほど、被検者は補聴器の自動機能によるさらなるサポートを必要とします。高度の範囲の場合は、複雑な聴取環境でのSN比(信号対雑音比)を改善するリモートマイクの利用を検討することが強く推奨されます。
ACT 値を使用して補聴器設定を変更する方法をご紹介します。2 種類の方法があり、1つはフィッティングソフトウェアに ACT 値を自動適用することで、補聴器設定の変更を自動的に行う方法です。もう1つの方法は、ACT 値をガイダンスにそって使用し、補聴器設定を手動で変更する方法です。
ACT 値を最も効果的に使用する方法は、補聴器のフィッティングソフトウェアに値を直接入力することです(可能な場合)。これにより、補聴器の自動機能が自動的に最適化されます。補聴器メーカーにより、NOAH を介して ACT 値をインポートする方法と、聴覚ケアの専門家が補聴器フィッティングソフトウェアにACT 値を入力する方法があります。ACT 値がソフトウェアに入力されると、被検者のフィッティングが最適になるように複数の補聴器パラメーターが変更され、ACT 値を考慮し補聴器の自動機能が自動的にフィッティングされます。 ※一部の補聴器ブランドのみでご利用いただけます。
補聴器フィッティングソフトウェアに、ACT 値を直接入力する項目がない場合は、ACT 値に基づく調整を手動で行うことができます。補聴器では一般的に、フィッティングソフトウェアに入力されたデータ(被検者のオージオグラムや、質問紙の回答や聴取成績など)に基づき、雑音抑制や指向性などの自動機能が処方されます。ACT 値は他覚的手法に基づき、補聴器自動機能を最適化する開始点の予測を可能にします。 補聴器の設定を手動で変更する前に、調整する補聴器で自動機能の設定がどのようにプログラムされるかを理解することが重要です。ACT 値の程度に基づいて行う変更の種類に関する詳細なアドバイスについては、下の図 2をご覧ください。
補聴器外来に来院した、ペニーとラウールのケースを見てみましょう。2人の純音聴力測定の結果は同じです。ペニーは英語を話し、ラウールはスペイン語を話します。オージオグラムを見る限り、ペニーとラウールの聴力はまったく同じです。 2人のオージオグラムは下の図の通りです(図 3 および 4)。
ACT 値を見てみましょう。ACT では、2人の話す言語が異なるにも関わらず、同じテストを使用してそれぞれの測定が可能です。テストの結果、ラウールの ACT 値 は 10 dB nCL と高い値を示しました。コントラストを高くしないと、変調のある刺激音とない刺激音の違いを聞き分けられません。一方、ペニーの ACT 値は低く、3 dB nCL です。ごくわずかな低いコントラストで、刺激音間の違いを聞き分けることが可能です。
ペニーは、これまで補聴器を装用したことがありません。純音聴力閾値および ACT 値で得られた情報から、元からある自然な音声の手がかり(speech cue)を保持しつつ、それらを適切に増幅することに重点を置く、RITE(外耳道内レシーバー型)タイプの補聴器を処方することを考慮します。
ペニーは新しい補聴器の購入を希望しているため、聴覚ケアの専門家はACT 値が自動的に取り込まれる機種を選択可能です。つまり、あらゆる状況においてペニーの聞こえをサポートする最善の方法が補聴器側で把握されていることになります。ただし、補聴器が通常よりもかなり騒音下での聞こえのサポートをしなければ音声を識別できない、というわけではありません。ペニーの ACT 値は低く、彼女の雑音下聴取能は高いので、自身でも聞き取りが良好にできることがわかります。
難聴を補償する適切な利得の設定(実耳測定で確認された通り)がなされれば、彼女は自身の耳と脳で音声を完全に識別することが可能です。最も聞き取りが難しい状況でのみ、高度な補聴器機能によるさらなるサポートが必要になるかもしれません。つまり、健聴者も聞き取りにくいと感じるような状況です。ペニーの補聴器装用下の聞こえをできる限り自然にするために、元からある自然な音声の手がかり(speech cue)が最大限伝わるように補聴器を設定する必要があります。
ラウールは、補聴器装用者です。静かな状況であれば、現在使用している補聴器で十分聞き取れます。ラウールに関しては、特に聴取が難しい状況、つまり彼が最も聞き取りにくいと訴えた状況において、補聴器による聞こえのサポートを最大限に得られるようにする必要があります。
雑音下での聞き取りで高度の問題があるため(ACT値により示唆)、雑音下での良好な聞こえを実現するために、追加で補聴援助機器を使用すると、かなりメリットがあると言えます。たとえば、リモートマイクの使用が考えられます。ACT 値を把握することにより、聴覚ケアの専門家は、補聴器の自動機能の調整と、追加で必要な補聴技術の処方を行うことができます。つまり、ラウールは今の補聴器を使い続けながら、追加の補聴援助機器からもさらなるメリットを得ることができるのです。
聴覚ケアの専門家はACT を使用することにより、雑音下での補聴器の使用について、補聴器ユーザーに対して自信をもって補聴器フィッティング行うことができます。利用可能な場合は、補聴器メーカーのフィッティングソフトウェアでACT値を自動適用する方法が最も簡単です。また、フィッティングおよびカウンセリングの指針としてもACT値を使用できます。ACT は、聴覚ケアの専門家が、難聴者が得られるメリットを最大化できる手段と言えます。
Bernstein, J. G., Danielsson, H., Hällgren, M., Stenfelt, S., Rönnberg, J., & Lunner, T. (2016). Spectrotemporal modulation sensitivity as a predictor of speech-reception performance in noise with hearing aids.
Killion, M. C., Niquette, P. A., Gudmundsen, G. I., Revit, L. J., & Banerjee, S. (2004). Development of a quick speech-in-noise test for measuring signal-to-noise ratio loss in normal-hearing and hearing-impaired listeners. The Journal of the Acoustical Society of America, 116(4), 2395–2405.
Parmar, B., & Rajasingam, S. (2023). Adult speech testing in the UK. ENT & Audiology News.
Zaar, J., Simonsen, L. B., Dau, T., & Laugesen, S. (2023a). Toward a clinically viable spectro-temporal modulation test for predicting supra-threshold speech reception in hearing-impaired listeners.
Zaar, J., Simonsen, L. B., & Laugesen, S. (2023b). A Spectro-Temporal Modulation Test for Predicting Speech Reception in Hearing-Impaired Listeners with Hearing Aids.
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- Format: Reading
- Clinical area: Audiometry